選挙の偽情報監視はどう行うか?選挙前60日の作業チェックリスト
本記事の監視リストは、投開票の手続き、候補者の発言、世論調査、映像・音声コンテンツを対象としています。投票日が近づくほど、検証と説明に使える時間は短くなるため、役割分担と対応方法は選挙前に決めておく必要があります。本記事では2026年統一地方選挙(台湾)を例に運用リストを整理しており、今後の各レベルの選挙に合わせて調整してお使いいただくこともできます。
クイックアンサー:選挙の偽情報モニタリングはどう行うのか
選挙の偽情報モニタリングとは、選挙期間中にニュース、SNS、フォーラム、メッセージアプリの公開コミュニティの内容を継続的に収集し、投開票の手続き、候補者、世論調査、ディープフェイクの音声・映像に関する疑わしい主張を識別して、疑わしい手がかりを示し、人による検証につなぐ業務です。選挙前には、注目する議題と公開情報源、人による検証の役割分担、説明の発信方法を確認しておくことができます。投票日が近づくほど、検証に使える時間は短くなります。ツールが出力するのは疑わしいシグナルであり、真偽の判断と対応は人が決めます。
こんなチームに適しています
- 中央・地方の選挙管理機関:投開票の情報に関する疑わしい主張の発見を支援し、人による確認につなげる
- 地方政府:選挙をきっかけに広がった、管轄内の公共サービスに関する検証待ちの主張への対応
- どの陣営の選挙陣営でも:自陣営の候補者を狙った偽造が疑われるコンテンツを早期に発見する
- メディアとファクトチェック担当者:検証待ちの主張のリストを作成し、主張が現在観測できるデータの中で最初に現れた場所を特定する
選挙期間中の疑わしい情報の5つのモニタリング項目
Wardle と Derakhshan は2017年に欧州評議会のために執筆した報告書『Information Disorder』で、情報の混乱を誤情報、偽情報、悪意ある情報に分類しました。モニタリングの実務では、まずどれに当たるかを判断する必要はありません。本記事ではコンテンツの種類で5つに分けています。種類ごとに対応する担当者と検証方法が異なるためです。表の内容はいずれも検証待ちのものであり、虚偽と確認されたことを意味しません。
| 監視項目 | 典型的なパターン | 観測できるシグナル | 主な対応主体 |
|---|---|---|---|
| 投開票の手続き | 公示と異なる投票日、場所、身分証明書の規定、または特定の記入方法をすると投票が無効になるという主張 | 公示と一致しないキーワードの組み合わせ。同じ画像カードが複数のソーシャルプラットフォームで同時に出現する | 選挙管理機関 |
| 候補者に関する発言 | 偽造の疑いがある発言のスクリーンショット、文脈を無視した引用、公式アカウントや宣伝物のなりすまし | 画像内のテキストが元の出典と一致しない。新規アカウントが集中して投稿する。類似の投稿が同時に現れる | 言及された候補者陣営、メディア |
| 世論調査に関するコンテンツ | 出所不明、または機関名を騙った世論調査の画像カード。公表禁止期間中に出回る世論調査データ | 発表機関が見つからない元データ。画像カードが短時間でプラットフォームをまたいで転載される | 選挙管理機関、メディア |
| ディープフェイクの疑いがある映像・音声 | 合成または改変された疑いがある候補者の音声・映像クリップ | 動画およびディープフェイク検出による疑わしいシグナル。投稿アカウントの特徴。本人の既存の公開映像との不一致 | 言及された候補者陣営、ファクトチェック組織 |
| 選挙後の結果に関する主張 | 集計や結果に関する検証が必要な事実の主張、または古い映像に新しい日時や場所が付け直されたもの | 開票時間帯の異常なボリューム。古い画像や動画が新しい説明付きで再び現れる | 選挙管理機関、地方政府 |
重点は右の列です。投開票の手続きや結果に関する主張は、選挙管理機関が優先的にチェックすることをお勧めします。候補者や映像・音声に関するものは、言及された陣営が元の素材や回答を提供できます。世論調査に関するものは別に記録してください。公表禁止期間中の散布は公表の規制に関わる問題で、内容の真偽とは別の話です。選挙の運営や結果への批判は通常の言論であり、検証が必要なのは、その中の未確認の事実の主張です。
誰が監視を必要とするか:目的が異なれば、線引きも異なります
監視計画では、利用者ごとに監視対象、検証の範囲、対応の権限と責任を明記する必要があります。
| 利用者 | 監視の重点 | 守るべき線引き |
|---|---|---|
| 選挙管理機関 | 投開票の手続きに関する主張、機関名を騙った告知 | 説明は手続き上の事実に限り、候補者、政党、政策については立場を示しません |
| 地方政府 | 選挙に誘発された、管轄内の公共サービスに関わる検証が必要な主張 | 行政の中立性を保ち、対応は所管の範囲内で検証可能な事実に限ります |
| 選挙陣営 | 自陣営の候補者を狙った、偽造が疑われるスクリーンショット、偽の引用、なりすましアカウント、ディープフェイクの音声・映像 | 偽造コンテンツの識別と説明にのみ使用し、批判者の追跡やレッテル貼りは行いません |
| メディアとファクトチェック担当者 | ファクトチェック待ちの主張が、現在観測できるデータの中で最初に現れた場所、拡散範囲、バリエーション | 報道の際は、二次拡散を抑えるため、原文や音声・映像の全文転載を避けます |
中立とは、モニタリングの対象を立場ではなくコンテンツの種類で決めるという意味です。特定の個人を識別できる内容を扱う場合は、まず個人データの収集・処理・利用の根拠と必要な範囲を確認してください。台湾にはすでに複数のファクトチェック団体や市民協働の検証コミュニティがあり、その公開済みのチェック結果を照合リストに加えることができます。ただし、チェック結果も元の資料に立ち返って確認する必要があります。
作業リスト:投票日の60日前から開票後まで
以下では、時期によって5つのフェーズに分け、各フェーズで検討できる事項を挙げます。これは一般的な出発点としての提案であり、実際の範囲、頻度、役割分担は、所管、データの入手可能性、人員に応じて各組織で決めてください。
| フェーズ | 検討できる事項 | 注意点 |
|---|---|---|
| 投票日の60日前 | 注目する議題と公開情報源を確認します。たとえば選挙管理機関の告示、候補者・政党の公式アカウント、地域のコミュニティやフォーラムです。キーワードには略称、同音の言い換え、よくある誤字を含めます。まず平常時の議論の量を観察し、後で比較する際の参考にします | モニタリングの対象は入手可能な公開コンテンツに限られます。平常時の議論の量は議題によって変わるため、固定の基準として扱うべきではありません |
| 投票日の30日前 | 公開済みのファクトチェック結果を整理し、繰り返し現れる主張を照合しやすくします。同じ主張のさまざまなバリエーションに注意し、世論調査の公表禁止期間に関する法規制の要件を確認します | 同じ主張が書き方を変えて再び現れることがあるため、照合の際は文字どおりの表現ではなく、主張の内容を見ます |
| 投票日の7日前 | 選挙管理機関の公告に基づいて投開票の手続きに関する正確な情報を整理し、検証時に照合しやすくします。前の段階での誤判定の原因を振り返ります | 検証に使える時間が短くなるため、データの入手可能性と人員に応じてモニタリングの範囲を見直すことができます |
| 投票日 | 投開票の手続きに関する疑わしい主張に注目し、人による検証に回します。検証の際は、判断の根拠とした情報源を残します | 手続きに関する主張は短時間に集中して現れることがあるため、検証と説明の適時性に注意します。説明は手続き上の事実に限ります |
| 開票後 | 集計や結果に関する検証待ちの主張や、古い映像に新しい日時や場所が付け直されたケースに注目します。データは規定に従って保存または削除します | 結果への批判は通常の言論であり、検証が必要なのは、その中の未確認の事実の主張です |
2026年の台湾統一地方選挙を例にすると、選挙公告は8月20日に出され、投票日は11月28日です。準備期間が60日に満たない場合は、最初の2つのフェーズを統合し、まず議題、公開情報源、人による検証の役割分担を確認するとよいでしょう。キーワードは作業しながら追加できます。
検証の優先順位付け:検討できる要素
疑わしい手がかりが多いときは、どれから確認するかを決める必要があります。よく考慮されるのは、内容が投票日、場所、記入方法などの具体的な事実の主張かどうか、すでに複数のプラットフォームに現れているかどうか、虚偽であった場合に影響が及びうる範囲がどの程度か、といった点です。これらの要素の比重に共通の基準はなく、各組織が所管と人員に応じて判断し、人が証拠に基づいて評価する必要があります。
拡散の指標が示すのは観測可能な伝播の状況であり、実際の露出と同じではなく、真偽の判断にも使えません。ディープフェイクが疑われる映像・音声は、転送数が少なくても、まず最初に入手したバージョンを保存してから人による検証に回すことをお勧めします。転送数が多いコンテンツが本物の素材である可能性もあります。
ディープフェイクの音声・映像:事前の計画が必要な分野
ディープフェイクの音声・映像を単独で計画すべき理由は3つあります。第一に、公職人員選挙罷免法は2023年の改正で第104条第2項を増設し、候補者、罷免の対象者、罷免案提案人の代表者本人のディープフェイクの音声、映像、電磁的記録を散布、放送、またはその他の方法で閲覧に供することにより、同条第1項の罪を犯した者は、7年以下の懲役に処するとしました。第二に、映像はプラットフォームをまたいで転送されることがあり、テキストのキーワードでは捕捉しにくいためです。第三に、検証には元のファイルと映像分析の専門性が必要になる場合があるためです。
| ステップ | できること | 限界と人による検証 |
|---|---|---|
| 発見 | テキストのキーワードに加え、動画のタイトル、説明文、コメント内の関連する主張にも注目する。モニタリングツールは疑わしい手がかりを示す助けになる | 実際の対象範囲はデータの入手可能性による。現在観測できるデータの中で最初に現れた場所とバージョンを確認する |
| 一次スクリーニング | 検知ツールは疑わしいシグナルを出力でき、画面内の文字や画像の照合が補助になる | 合成や改ざんがあるかを判断する。検知結果は鑑定結果ではない |
| 発信源の追跡 | 観測できる投稿時刻と転載の経緯を整理する | 公開されている日程や元の映像と照合し、本人に確認する |
| 保存 | 最初に入手したバージョンとその出所を保存する | 法的手続きに関わる場合は、保存と鑑識の方法を別途確認する |
注意点が2つあります。1つ目は、動画が非可逆圧縮で再圧縮されると画質や音声が劣化し、判断に影響しうるため、最初に入手したバージョンを保存することです。2つ目は、ディープフェイクの問題は双方向であることです。偽造動画が本物として受け取られることもあれば、本物の動画が偽造だと主張されることもあります。いずれも元の素材に立ち返り、本人に確認する必要があります。
指標の読み方:偽情報の観点から補う4つの読み取りの注意点
ボリューム、感情の比率、異常シグナルに関する3つの基本的な誤用は、選挙世論分析と民意の追跡にまとめています。以下では、疑わしい情報の検証に関わる4つの読み取りの注意点を補足します。
| 観察される現象 | 陥りやすい誤った結論 | より妥当な読み方 |
|---|---|---|
| 説明を公表したあとに、関連するボリュームがかえって増えた | 元の主張がまだ拡散しており、説明は効果がない | 元の主張と説明をめぐる議論を分けて集計します。増えているのは説明の転送かもしれません |
| ある主張が主要なプラットフォームではボリュームが非常に小さい | 影響は限定的で、対応は不要である | メッセージアプリのコミュニティやショート動画プラットフォームですでに出回っている可能性があります。プラットフォーム間の出現時刻の差を確認します |
| 複数のアカウントが同じスローガンを同時に投稿している | これは協調的な不正行為である | 同時投稿だけでは協調的な不正行為の証明にはなりません。アカウントの身元、情報源の開示、内容も確認する必要があります |
| ディープフェイク検知が高い疑わしさのスコアを出した | その動画は確実に偽造されたものである | これは検証の出発点です。低いスコアも本物であることを意味せず、いずれの場合も元の素材に立ち返ります |
3行目には判断基準の説明が必要です。Facebook社(現Meta Platforms)は2020年のCIBレポートで、協調的な不正行為(CIB)を、戦略的な目的のために公共の議論を協調して操作する行為で、偽アカウントがその運用の中核にあるものと定義しました。対処の根拠は内容そのものではなく、行動の欺瞞性です。そのため、同時投稿だけでこの種の行為と断定することはできません。また、実名で公開していても内容が正しいとは限らず、事実の主張は通常の手順で検証できます。協調的な行動や不審アカウントの識別は確率的な分析であり、誤判定の可能性があるため、人による再確認が必要です。
もう一つのよくある参考資料は、公開されているボリュームのダッシュボードやトレンドツールで、ある地域や議題の議論量の変化を示すことができます。こうしたデータは背景として使うのに適しています。疑わしい主張が現れたときに関連する議論がすでに高まっていたかを照合し、既存の議題に便乗したものか、議論が平穏なときに突然現れたものかを判断します。ただし、ボリュームは世論調査ではありません。ボリュームの大小だけで得票率や選挙結果を推測することはできず、それをもとに情報の真偽を判定することもできません。ツールによってデータソースと対象範囲が異なるため、比較する前に集計の基準を確認してください。
2026 台湾選挙ラボ:公開ボリュームを背景の参照として使う
LargitData が InfoMiner で構築した2026 台湾選挙ラボは、台湾全22県市を対象とする公開のボリュームダッシュボードです。世論調査ではなく、結果を予測せず、情報の真偽も判定しません。
法規制に関する注意:デマの流布、ディープフェイク、世論調査の公表禁止
直接関係する現行の条文は主に公職人員選挙罷免法にあります。下の表に、各条文の要点と、モニタリング業務にとっての意味を整理します。
| 条文 | 規定の要点 | モニタリング業務にとっての意味 |
|---|---|---|
| 第104条第1項 | 候補者を当選させ、または当選させないため、あるいは罷免案を成立させ、または否決させるために、デマを流し、または虚偽の事実を伝播して、公衆または他人に損害を生じさせるに足りる者は、5年以下の懲役に処する | モニタリングで示せるのは検証が必要な主張にとどまります。この罪に該当するかどうかは、権限のある機関が法に基づいて認定します |
| 第104条第2項 | 2023年に増設:候補者、罷免の対象者、罷免案提案人の代表者本人のディープフェイクの音声、映像、電磁的記録を散布、放送、またはその他の方法で閲覧に供することにより前項の罪を犯した者は、7年以下の懲役に処する | ディープフェイクが疑われる音声・映像は、最初に入手した元のファイルを優先して保存します。真偽は人による検証が必要です |
| 第53条第3項 | 政党およびいかなる者も、投票日の10日前から投票時間の終了前までは、同条前2項の資料、すなわち候補者、罷免の対象者、または選挙・罷免に関する世論調査の資料、およびその他の世論調査の外観を持つ選挙・罷免の資料を、いかなる方法でも公表、報道、散布、論評、引用してはならない | この種の資料はモニタリングの対象であり、記録するのは公表という行為で、内容の真偽とは切り離します。自社が外部に出すレポートも確認が必要です |
モニタリング自体にも限界があります。収集は公開コンテンツに限り、分析の単位は議題と拡散パターンとし、目的を超えた個人のプロファイリングを避け、用途に応じて個人情報保護などの法規制の要件を評価します。批判、風刺、意見表明は対処の対象ではありません。内容の真偽はファクトチェック担当者が証拠に基づいて判断し、違法かどうかは権限のある機関が法に基づいて認定します。虚偽と判断されたことは違法であることを意味しません。条文は全国法規資料庫の現行条文と選挙管理機関の公告を正とします。
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